病院内でも、マイクさんは人気者
マイクさん
〈昨日は清水さんが面会禁止の病院に来て頂きました〉
はい。新型コロナウィルスの感染防止対策のための面会禁止措置ですから、実はとてもいけないことをしたのかもしれませんね。反省していますが、同時に、それでも近くにいるのだからせめてお顔だけでも見て帰りたいと思い、あんなことになりました。内緒ですよ。しかし、若い頃からダメだと言われるとつい……。感染予防策も徹底し、自分の体調管理もしっかりした上でのお見舞いでした。
〈病院でゆっくりしようと、昨晩はエネルギーを増強したのですが、ムセカエッテ逆流まで起こし、また肺炎かと覚悟して、何とか添加物を隠せて、当直医の世話で何とかなりました〉
やっぱり、食べることと飲むことが、この歳になると生きている楽しみの大きな部分になります。マイクさんの場合は楽しみはもちろんエネルギー増強剤にもなっているのですね。「おとうと」という映画で、吉永小百合が笑福亭鶴瓶演じるダメな弟の胃瘻から酒を流し込むシーンを思い出しました。ぼくも医者からは「あまり飲むな。ほどほどに」と言われているのですが、ついつい度を越してしまいます。気持ちよくなるまで飲まないと、酒を飲んだという気分にはならないので。そうなんです、ぼくは酔いを求めるより、エネルギーを求めるより、酒にはやっぱり気分を求めてしまうのです。
〈何しろ無茶を承知で隠れて、また覚悟してやるのが好きなのはいいのですが、段々ヤバくなっているようです。
元々マイクは自己管理能力が足りないのです。と言うよりギリギリのところでキープする、そんな楽しみを愉しむそんな男なのです〉
マイクさんのこの言葉にも表れているように、QOLは「覚悟・自己管理・楽しみ」の調和だと思っています。「酒」で考えるとよく分かります。なにがしかの病を抱えていて、医者からは制限されても、自分なりの覚悟を持って、ちゃんと自己管理をした上で、すべてにおいて自己責任を承知の上で楽しむのです。そのどれが欠けても楽しめないのは自明のことですね。ぼくは人に押し付けるつもりはありませんが、自分の思いとして
No life, no drink!
と強く表明しておきます。これは何が何でも酒を飲み続けたいということでは、決してありません。酒もうまく付き合えば人生を豊かにしてくれるということです。そういう意味で、酒は人生に欠かせないと。ええ、あくまでもぼくの人生にです。いい言葉をひとつ。
Candy is dandy, but liquor is quicker.
女性に甘いものをプレゼントしたら喜ばれるけど、アルコールの方が口説きやすい、って意味でしょうか。いろんな解釈があるけど、ぼくは手っ取り早く格好つけるのは面倒臭い、辛気臭いくらいの感じで理解してます。格好つけずに、自分のペースで楽しめばいい。そんなふうに思っています。
〈それより何より初めてのオムツを体験。この話はやめておきますが、ADL(activity of daily life)最悪の1日を飾るに相応しい恥ずかしいシーンシーンでした〉
いいじゃないですか。オムツをあてていても。そういうぼくだって、普段は尿もれパッド、長時間移動したり、仕事をしたりするときは履くタイプを使っています。使っていることだけを指せば、ちょっとかっこ悪いかなって思いますけど、仕事や遊びや何かに集中したいと思うとき、楽しみたいと思うとき、これを使うのは、ぼくにとってはいい選択なのです。これを使うことで、心配になったり不安になったりせずに飲み続けたりもできるのです。尿もれパッドや紙オムツは、それ自体決しておしゃれではないけれど、それを使いながら上手に格好良く楽しみを愉しむことができるとぼくは思います。
〈コミニュケーションは大変難しく思うけど、ALS仲間が近くにいるだけでホッとします〉
マイクさん
人間は弱い生き物です。決してひとりでは生きていけないと思います。では仲間という人に何を求めるのでしょうか。救いを求めているのでしょうか。ぼくは思います。おたがいが仲間だと呼びあえる人の中に、ぼくらは自分自身を見ているのではないでしょうか。そうして自分は決してひとりではないと実感しているのだと思います。自分の境遇にくじけそうになったとき、仲間の中のもうひとりの自分に励まされて、また生きる道を選ぶのでしょう。そう、ぼくらは決してひとりじゃないし、孤独でもないのです。
空腹感の話はまたこの次に。