
怪しいですね。
マイクさん
ずいぶんご無沙汰してしまいました。往復書簡の体を成していませんね。申し訳ありません。イベントが終わって、ちょっと冷静になって自分が病人であることを思い出し、病院に通ったり治療方針を求めていろんな人に相談したりで時間が過ぎてしまいました。病は気からと言いますが、忙しいと病気のことは忘れてしまってその間に病気が治るかというと、決してそんなことはなくマイクさんのALSもそうですが、ぼくのがんも密かに確実に進行していくのです。本当に厄介な病気ですね。いやんなっちゃう。
だから絶えず自分は病気である、がんであるということを意識しておかなくちゃと思いますが、それも決して後ろ向きじゃなく、悲観的にじゃなく、前向きにとらえ続けたいと思っています。そんな時にマイクさんの「同病者同士の繋がりがあれば、医師からの症状の進展説明よりリアルに納得できそうに思います。また精神的な、更になかなか知るのが難しい経済的な具合まで参考にできるはずです」という言葉が生きてきますね。特に経済的な問題は大きいです。
ぼくはなんの保証もない自由業という生き方からか、人生の備えとして若い頃から生命保険に入り、早くからがん特約、先進医療特約などという契約を結んで、いざという時はこれで大丈夫などと思っていました。ところがです、前回の大腸がんから2年経過せずに前立腺がんが見つかったことで、しかも同じ悪性新生物と診断されたことにより、ほとんどなんの補償も受けられないことがわかりました。不安がひろがりました。放射線治療にどれだけの費用がかかるのか、その間仕事はどうなるのか、補助や助成はあるのかないのか……。あれやこれや思い悩みますが、解決策は見つかりません。じゃあどうするか? 答えは明快でした。経験者に話を聞く。これに尽きるということです。
放射線治療がいかなるもので、その結果どのようになるのか。どれほどの費用がかかり、どのような制度が使えるのか。医師の言葉だけではなく、経験者の具体的な話を聞くことで、かなり具体的にいろんなことを想定できるようになりました。そうしてそれに沿って準備を進めています。予定としては、年内は観察を続け、年明け早々から放射線治療にかかります。37日間土日、祝日を除いて放射線照射を受けます。ホルモン治療は回避しました。これも医師はもちろんですが経験者の話を参考に決めました。医師の話は一般的な話に終始しますが、経験者の話は具体的でとてもわかりやすいと感じました。マイクさんの言うピアカウンセリングの大切さ、必要性をぼくも身をもって感じました。
ここにもマイクさんの言う「入院生活は色々の人生を『リアル』に見られる面白味」があるのでしょうねえ。そこには参考になることばかりではなく、苦悩や悲観、悲しみや喜び、怒りや失望、さらには諦めという、病をめぐる様々な感情や思い、考えが噴き出すようにあふれてくるように思います。
「ルポライター清水さんはモラルとして個人情報を如何扱うかの迷いや悩みはないのでしょうか」
もちろんあります。だからもし、ぼくがそのことを書くとしたら、その人の話を書くのではなく、自分のことに引きつけて、徹底的に自分自身に集中して書きたいと思います。他者の個人情報を書くのではなくて、自分自身をさらけ出すのです。それが「リアル」につながると確信しています。
マイクさんの胃ろうをどうするかという決断。ぼくもいつか通る道かもしれませんから、強い関心を持って見守っています。